少女と老人が共有する閉鎖的なエロティシズムの世界。小川洋子が「博士の愛した数式」とは全く異なる世界を描く。
老人と少女の恋愛の話である。
しかし、その愛し方は人とは異なっている。少女は老人に虐げられることによって、快感を得て、繋がりを感じているからだ。その世界は究極といっていいくらいに、徹底したマゾヒズムに貫かれている。
例えば、ひもが体に食い込むことで快楽を見出し、自分の醜さを見ては喜び、首を絞められることで陶酔に至る。そんな少女の姿は狂気的ですらある。
また、この物語の後半で、舌のない若い男というものが登場するのだが、そこで安直なドラマツルギーに走るのではなく、それをすら老人との快楽の道具にする少女の徹底ぶりにはさすがに寒気を覚えた。
当然のことだが、二人の関係が歪んでいることは否めない。しかしそんな暴力を含んだ関係にも関わらず、二人が互いに抱いている感情は間違いなく恋愛感情である。
正直言って、僕はそんな少女の感情や行動には共感もできないし、理解もできない。しかしだから読む気がなくなるということは決してなかった。
それは少女の感情を精緻に、繊細に、耽美的に描ききった小川洋子の文章による所が大きいだろう。この万人に受けるとは思えない世界をこれほど美しい世界に仕上げたのはさすがである。
この文章と、歪んではいるが確固としたエロティックな世界を味わうだけでも読む価値はあると思う。
評価:★★★(満点は★★★★★)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます